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岐阜地方裁判所 平成10年(ワ)799号 判決 2000年7月03日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告に対し、<1>被告らは、連帯して二〇六万〇四六三円を、<2>被告牛丸は、三七五万六五五七円を、それぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告と訴外丸豊製函株式会社(以下「訴外会社」という。)とは、訴外会社が株式会社大垣共立銀行(以下「訴外銀行」という。)及び岐阜信用金庫(以下「訴外金庫」という。)から借入をするについて、<1>訴外銀行からの後記4(一)の借入につき、昭和五六年一二月四日、<2>訴外金庫からの後記4(二)の借入につき、昭和五八年九月一三日、それぞれ原告が訴外会社に代わって右各借入債務を弁済したときは、同社は原告に対し右弁済金及びこれに対する年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨の内容の信用保証委託契約を締結した。

2  原告に対し、<1>被告牛丸は、右1の各信用保証委託契約に基づき訴外会社が原告に対し負担する債務について、<2>被告平田は、右<1>の信用保証委託契約に基づき訴外会社が原告に対し負担する債務について、それぞれ連帯保証する旨約した。

3  原告は、<1>昭和五六年一二月八日、訴外会社の訴外銀行に対する後記4(一)の借入債務について、<2>昭和五八年九月一九日、訴外会社の訴外金庫に対する後記4(二)の借入債務について、連帯保証した。

4  訴外会社に対し、<1>訴外銀行は、昭和五六年一二月一〇日左記(一)の内容で、<2>訴外金庫は、昭和五八年九月二〇日左記(二)の内容で、それぞれ金員を貸し付けた。

(一) 元本        三五〇万円

元金の支払方法   昭和五七年一月から昭和六二年一〇月まで毎月末日限り五万円宛に分割して支払う。

利息        年九・八パーセント

利息支払方法    昭和五六年一二月から毎月末日(ただし初回は一〇日)限り次回までの分を前払い

特約        訴外会社は、破産の申立によって期限の利益を喪失する。

遅延損害金     年一四パーセント

(二) 元本        五〇〇万円

元金の支払方法   昭和五八年一一月から昭和六五年九月まで毎月二日限り六万円宛に分割して支払う。

利息        年八・五パーセント

利息支払方法    昭和五八年一〇月から毎月二日限り次回までの分を前払い

特約        訴外会社は、破産の申立によって期限の利益を喪失する。

遅延損害金     年一四パーセント

5  訴外会社は、昭和五八年一二月一三日、岐阜地方裁判所において破産宣告を受け(同裁判所昭和五八年(フ)第一六〇号。以下「本件破産事件」という。)、期限の利益を喪失した。

6  本件各信用保証委託契約に基づき、原告は、昭和五八年一二月一五日、<1>訴外銀行に対し、前記4(一)の借入の残債務二四〇万九六六五円(以下訴外銀行のこの貸金債権を「貸付債権(一)」といい、原告の弁済した金員を「求償元金(一)」という。)を、<二>訴外金庫に対し、前記4(二)の借入の残債務四九八万九四六七円(以下訴外金庫のこの貸金債権を「貸付債権(二)」といい、原告の弁済した金員を「求償元金(二)」という。)を弁済した。

7  <1>訴外会社及び被告らは原告に対し、昭和五九年七月三日から平成七年四月二八日までの間に、別紙損害金計算書1のとおり求償元金(一)を支払ったものの、右支払済までの年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金合計二〇六万〇四六三円(以下「求償損害金(一)」といい、求償元金(一)とあわせて「求償債権(一)」という。)を支払わず、<2>訴外会社及び被告牛丸その他の者は原告に対し、昭和五九年七月三日から平成五年九月三〇日までの間に、別紙損害金計算書2のとおり求償元金(二)を支払ったものの、右支払済までの年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金合計三七五万六五五七円を(以下「求償損害金(二)」といい、求償元金(二)とあわせて「求償債権(二)」という。)を、それぞれ支払わない。

8  仮に、前示2の被告牛丸の連帯保証の事実が認められないとしても、同被告は原告に対し、右連帯保証債務として右7<1><2>のとおり弁済し、もって右連帯保証契約を追認した。

9  よって、原告は、<1>被告らに対し、連帯して求償損害金(一)を、<2>被告牛丸に対し、求償損害金(二)を、それぞれ支払うよう求める。

二  請求原因に対する被告牛丸の認否

1  請求原因1の事実のうち年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の約定は不知。その余は認める。

2  請求原因2<1>の事実は否認する。

3  請求原因3ないし7の各事実は認める。ただし同7の弁済日は争う。

4  請求原因8の事実は否認する。

三  被告平田の認否

1  請求原因1<1>の事実は不知。

2  請求原因2<2>の事実は認める。

3  請求原因3<1>、4<1>、5、6<1>の各事実は不知。

4  請求原因7<1>のうち被告平田が弁済した事実は否認し、その余は不知。

四  被告らの抗弁

原告の訴外会社に対する求償債権は、商事債権として五年の消滅時効にかかるところ、原告が代位弁済した昭和五八年一二月一五日から五年が経過しており、仮に本件破産事件における債権届出によって右求償債権の時効が中断するとしても、同破産手続は、平成元年四月一四日に終結し、更にそれから五年が経過したから、被告らは、右各消滅時効を援用する。

五  被告牛丸の抗弁

1  原告は、昭和六三年一月頃、被告牛丸に対し、同被告の負担する債務のうち求償損害金(一)(二)に相当する債務を免除する旨の意思表示をした。

2  被告牛丸は、別紙損害金計算書1、2の金員を、同計算書の記載より二ないし四日ずつ早く支払ったから、これを前提に損害金の計算をすべきである。

六  抗弁に対する認否

1  被告らの抗弁について

同主張の事実は認め、時効の完成は争う。

2  被告牛丸の抗弁について

同1、2の各事実は否認する。原告が被告らの債務を一部でも免除した事実はないし、被告牛丸の弁済日も原告主張のとおりである。

七  再抗弁

1  原告は、昭和五九年一月一〇日、本件破産事件において、訴外会社に対する求償債権を、破産債権として届け出し、同債権届出は管財人等からの異議なく確定した。

2  右によって、訴外会社に対する求償債権は、本件破産事件が終結して平成元年四月一四日まで時効が中断するとともに、破産法二四二条、民法一七四条の二によって、時効期間が一〇年に延長されたところ、本訴は、右終結から一〇年以内である平成一〇年一一月一八日に提起されているから、被告らの消滅時効の抗弁には理由がない。

八  再抗弁に対する被告らの認否

1  同1の事実は否認する。原告が届け出たのは、訴外会社に対する求償債権ではなく、代位取得した貸付債権(一)(二)である。

2  同2の法的主張を争う。右のとおり、求償債権の届出がない以上、その時効期間が延長されることはない。また、少なくとも原告が本訴で請求している求償損害債務(一)(二)が届出された事実はないから、原告の権利喪失はやむを得ないところである。

理由

一  被告牛丸に対する請求原因について

1  請求原因1、2<1>について

請求原因1のうち、年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の約定以外の事実は、原告と被告牛丸との間に争いがないが、同被告は、右損害金約定及び請求原因2<1>の連帯保証の事実を争っている。

そこで、甲第一、二号証について検討するに、被告牛丸作成名義以外の部分の成立は右当事者間に争いがなく、被告牛丸の作成部分については、右各部分の同被告名下の印影が同人の実印によって顕出されたことに争いがないから、真正に成立したものと推定すべき甲第一、二号証によれば、請求原因1のうちの遅延損害金の約定と請求原因2<1>の事実を認めることができる。

これに対し、被告牛丸は、甲第一、二号証の同被告名義の署名は、いずれも自分がしたものではない等とその成立を争う趣旨の供述をしているが、同本人の供述を精査しても、右各号証の作成当時、これらに押印されている同被告の実印を第三者が保管していた形跡は窺われないし、後示争いのない請求原因7の弁済の事実(ただし弁済日を除く)も考慮すると、被告牛丸の右供述は直ちに採用することができない。

2  請求原因3ないし7について

右各事実は、原告と被告牛丸との間に争いがない(ただし請求原因7の弁済日の点を除く)。

3  したがって、以上によれば、被告牛丸について原告主張の保証債務の成立を認めることができる。

二  被告平田に対する請求原因について

1  請求原因1<1>について

前記一1のとおり、成立の認められる甲第一号証によれば、請求原因1<1>の事実が認められる。

2  請求原因2<2>について

右事実は、原告と被告平田との間に争いがない。

3  請求原因3<1>、4<1>、6<1>について

成立が原告と被告平田との間に争いのない甲第五、七、九号証によれば、右各事実を認めることができる。

4  請求原因5について

右事実は、当裁判所に顕著である。

5  請求原因7<1>について

右について、被告平田から請求原因7<1>の範囲を上廻る弁済の主張はない。

6  したがって、以上によれば、被告平田についても原告主張の保証債務の成立を認めることができる。そこで、次項において、被告ら主張の消滅時効の抗弁を検討することとする。

三  被告らの消滅時効の抗弁について

1  被告らの抗弁事実は、当事者間に争いがない。

そして、請求原因4(一)(二)の借入は、訴外会社にとって商行為にあたるから、貸付債権(一)(二)、及びその履行の担保のために締結された本件各信用保証委託契約に基づく求償債権(一)(二)は、いずれも商事債権として五年の消滅時効に服するものというべきである。

2  そこで、再抗弁1の事実について検討する。

(一)  成立に争いのない甲一九号証、弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五九年一月一〇日破産債権届出書を提出して、本件破産事件において「代位弁済金債権」合計九二六万七九三七円(内訳・債権額九二二万円、利息四万七九三七円)の債権届出をしており、このうち右届出書には、本訴に関係する債権として、以下の趣旨の記載のあるのが認められる。

<1>「債権額3   二四〇万円也」

「昭和五六年一二月四日付信用保証委託契約に基づいて訴外会社が昭和五六年一二月一〇日訴外銀行より証書貸付の方法で融資を受けた三五〇万円也を信用保証したが、訴外会社が期限にこれを返済しないため昭和五八年一二月一五日上記金融機関に対して代位弁済した元金」

<2>「債権額4   四九四万也」

「昭和五八年九月一三日付信用保証委託契約に基づいて訴外会社が昭和五八年九月二〇日訴外金庫より証書貸付の方法で融資を受けた四九四万円也を信用保証したが訴外会社が期限にこれを返済しないために昭和五八年一二月一五日上記金融機関に対して代位弁済した元金」

<3>「利息3    七七三二円也」

「前記<1>の金員に対し、昭和五八年一二月一日より昭和五八年一二月一二日まで年率九・八パーセントの割合により算出した金員」

<4>「利息4    三万四五一二円也」

「前記<2>の金員に対し昭和五八年一一月三日より昭和五八年一二月一二日まで年率八・五パーセントにより算出した金員」

(二)  右認定の事実に基づいて検討するに、右破産債権届出に記載された債権の種類は、「代位弁済金債権」となっており、これが貸付債権(一)(二)であるのか求償債権(一)(二)なのかについてやや明確を欠くものであるが、他方債権額は、元金と利息に分けて届出されており、しかも記載された利息の割合は、それぞれ貸付債権(一)(二)について合意された利率(年九・八パーセントないし八・五パーセント)と同一の割合であることが認められるところ、本来、求償債権(一)(二)を債権届出する場合には、右元金と利息はいずれも債権額のなかに一本化して記載されるべきものであり、また、仮に求償損害金(一)(二)を劣後債権(破産法四六条)として届け出るのであれば、右一本化された債権額に対して、本件各信用保証委託契約で合意された年一四・六パーセントの割合をもって計算されるべきものであったというべきである。

したがって、以上の点を総合すれば、前記債権届出の対象となったのは貸付債権(一)(二)であったと認めるのが相当である。

3  右を前提に、前示の債権届出によって原告主張の求償債権の時効中断の効力及び時効期間延長の効力が生ずるかについて検討するに、以下のとおり、求償債権の時効中断については、原告主張のとおり本件破産事件が終結した平成元年四月一四日までの中断を認めることができるものの、その後の時効期間については破産法二四二条、民法一七四条の二は適用されず、五年の商事時効が一〇年に延長されるものではないと解するのが相当である。

すなわち、原告は請求原因6の弁済によって訴外会社に対して求償債権(一)(二)を取得するとともに、訴外銀行及び金庫の訴外会社に対する貸付債権(一)(二)を代位して取得するところ(民法五〇一条)、原告にとって右貸付債権は、求償債権(一)(二)を確保することを目的として存在する附従的な権利であり、原告がいわば求償債権(一)(二)の担保として取得した貸付債権(一)(二)につき破産裁判所に対してなした前記債権届出によって、求償債権についても時効中断効の基礎となる権利の行使があったとみなすことができる。しかしながら、他方前示2(二)のとおり債権届出がなされたのは、あくまで貸付債権(一)(二)であって、求償債権(一)(二)ではないのであるから、債権調査期日において届出債権につき破産管財人、破産債権者及び破産者に異議がなかった場合であっても、本件破産事件において、求償債権の内容及び存在について確定する手続がとられたとみることはできないというべきだからである。

4  したがって、本件では、破産手続が終了した平成元年四月一四日から五年後の平成五年四月一四日の経過によって原告の訴外会社に対する求償債権(一)(二)はいずれも時効消滅したと認めるのが相当であり、これを援用する被告らの抗弁はいずれも理由がある。

5  以上に対し、原告は、本件破産事件において求償債権(一)(二)の債権届出をした旨主張し、証人櫻井秀樹の証言中には右に沿う部分があるが、届出にかかる債権の性質は、届出書の記載内容から客観的に決定されるべきところ、本件破産事件における届出書の記載は前示2(一)のとおりであって、これを求償債権(一)(二)の届出とみるのは困難である。

なお、仮に前示2(一)認定の債権届出の記載によって、貸付債権(一)(二)と併せて求償債権(一)(二)の一部についても何らかの債権届出の効力を生ずる余地があるとしても、本件では、求償損害金(一)(二)自体について劣後債権としての届出がなされていないのは前示2(一)認定の届出の内容から明らかであるから、本訴請求にかかる右各求償損害金債権についてまで債権届出の効力が生ずると解する余地はなく、この点から前示4の認定が左右されるものではない。

四  結論

以上によれば、原告の本訴請求にはいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙) 損害金計算書1

<省略>

損害金は代位弁済日の翌日から元金入金額に対し年14.60%の割合による計算額。〔内入額方式〕

日数は、代位弁済日の翌日から各入金日までの日数である。

(別紙) 損害金計算書1

<省略>

損害金は代位弁済日の翌日から元金入金額に対し年14.60%の割合による計算額。〔内入額方式〕

日数は、代位弁済日の翌日から各入金日までの日数である。

(別紙) 損害金計算書2

<省略>

損害金は代位弁済日の翌日から元金入金額に対し年14.60%の割合による計算額。〔内入額方式〕

日数は、代位弁済日の翌日から各入金日までの日数である。

(別紙) 損害金計算書2

<省略>

損害金は代位弁済日の翌日から元金入金額に対し年14.60%の割合による計算額。〔内入額方式〕

日数は、代位弁済日の翌日から各入金日までの日数である。

(別紙) 損害金計算書2

<省略>

損害金は代位弁済日の翌日から元金入金額に対し年14.60%の割合による計算額。〔内入額方式〕

日数は、代位弁済日の翌日から各入金日までの日数である。

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